LAP・ルート記入用紙の回収状況から分かること
−今後の大会運営の参考として−


 ルートを簡単な選択形式で記入できる「LAP・ルート記入用紙」を用意したところ 4割という高い回収率が得られました。 他の大会等においてルートの情報を多く収集するためのヒントとして、 本練習会で高い回収率が得られた背景についてまとめました。


1.はじめに − 日本のオリエンテーリング大会におけるルート回収率の現状

 日本で開催されるほとんどのオリエンテーリング大会において LAP解析が速やかに提供されるようになり、 参加者の競技後の反省に大いに役立っているものと思われます。 一方、ルートに関してはインカレ等において上位者のルートを主催者が集めて解析したり、 国際的な大規模大会のエリートクラスにおいてはGPS内蔵のチップを用いることによって ルートの提供を可能にする試みが行われていますが、 広く一般の参加者からルートの情報を集めて統計的な解析を加えて公表するといった仕組みは 確立されているとは言えません。 一般参加者から広くルートの情報を集める先駆的な試みとしては RouteGadgetというWEBページがありますが、残念ながら現状ではその登録率は低く、 例えば2009/3/22開催の全日本大会のM21Eクラスにおいても登録者は全35参加者のうちの8人(23%)、 最も参加者の多いM21Aクラスでは全103参加者のうちの12人(12%)に留まっています。 ルートの回収率をより一層上げる方法が確立されれば参加者の競技後の反省の質を高め、 運営者へのフィードバックにもなって 日本オリエンテーリング界の一層の活性化につながるものと期待されます。


2.LAP・ルート記入用紙の着想に至るまで

 本練習会で電子パンチを用いないことを決定して以来、 運営者は精度の高いLAP解析を提供できない分を何らかの方法で補うことは出来ないものかと 頭を悩ませてきました。 そこで目を付けたのがルート解析でした。 効果的なルート解析を提供するためには多数の参加者からルートの情報を集めることが鍵となります。 その方法として思いついたのがLAPデータとセットで回収することでした。
 本練習会のように紙CCで行う場合、LAP解析を提供するためには 参加者が自ら計時したLAPデータを収集する必要があります。 LAP解析の需要は高いであろうからLAPデータは恐らく多数の参加者が提出してくれるであろう という想定のもと、そのLAPデータ記入のための用紙にルートの記入欄を設けて 合わせて提出してもらうようにすれば自然とルートの回収率も高まるであろうと考えたわけです。
 したがって、運営者の目論見通りであればこの方法は電子パンチではないからこそできることであり、 電子パンチを用いている通常の多くの大会では使えない方法のはずでした。


3.用意したLAP・ルート記入用紙

 下の図は今回の練習会で用意したLAP・ルート記入用紙で、クリックすると拡大できます。 参加者がルートを記入したがらない理由として、 (1)記入が面倒、(2)ミスった箇所などを公にしたくない、 という2つを想定してこれらの障壁を除くべく 簡単な選択形式で回答できる用紙を用意した点がポイントです。 このほか、参加者の記入の負担が増えないように両面1枚以内に抑えること、 各レッグのルート記入欄と候補ルート一覧を同じ面に印刷すること、を徹底しました。


(作成したLAP・ルート記入用紙の見本。クリックすると拡大します)


4.配布と回収

 回収率を高めるため、LAP・ルート記入用紙は受付で配布する封筒の中に同封する方式としました。 もちろんこれを競技前に参加者が見てしまったのでは前もってコースの一部がばれてしまうので 写真(クリックすると拡大します)のような小封筒に入れて同封しました。 当日は拡声器を使って提出を呼びかけ、目立つ場所に回収BOXを用意して回収を行いました。


(LAP・ルート記入用紙の入っている小封筒の見本。これを他の配布物とともに大封筒に入れて 受付で配布しました)


5.回収率とその意外な結果

 下に得られた回収率を示します。 Long, Shortのいずれのコースにおいても4割という高い回収率が得られたことが分かります。 意外だったのはLAPの記入がわずか1名からしか無かったことでした。 残りの8枚はLAP記入欄は空欄で、ルートのみ回答がなされています。 このことは、当初運営者が目論んだように「LAPデータを提供するついでに」ルートを記入した 参加者はごく僅かで、ほとんどの参加者はルートの記入それ自体を目的に提出した ということを示しています。 したがってこの方法は実は電子パンチを用いている(LAPの提出の必要の無い) 他の多くの大会においても有効な方法であるということになります。

(本練習会におけるLAPとルートの回収状況)
コース 出走者数 LAP回収数 ルート回収数 ルート回収率
Long 5人 0人 2人 40%
Short 17人 1人 7人 41%


6.終わりに − ルートデータを多く集めるにはどうすれば良いか

 4割という高いルートデータ回収率が得られたのは LAPデータの収集ついでに集めたからではないことは上述した通りです。 ほかの理由としては (1)選択形式とすることによって参加者のルート記入の負担を減らしたこと、 (2)ミスした箇所の記入を不要とした結果、ミスを人に知られたくないという心理が ルートを記入してもらう上での障壁とならなかったこと、 (3)受付での配布物に同封することによって用紙の存在の周知率を高めたこと、 (4)回収場所を分かり易くしたこと、 が考えられます。
 今後、読者の皆様が大会を運営する際に、今回の練習会の試みを参考に ルートの情報を多く集める試みをしてみてはいかがでしょうか?